5年

ボクシングジムの授業の中でもお気に入りの時間は、運動したあとにトピックを決めて自己紹介をする時だ。トレーナーがここへ移って、参加者が変わったからだ。

今日はトレーナーがおれにトピックを決める役に指名した。前から決めていた「5年後の目標」にした。参加してる人や、トレーナーが何考えて生活してるのか、すこし知りたかったからだ。そして、覚えている中で下のようなものがあった。

「Indianapolisの市長になる」
「11年後(定年後?)にフロリダに移住」
「聾唖学校の先生になる」
「(ゲーム関連の)音楽家になる」
「長期休暇をとる」

どこか子供じみているのがおもしろいと思う。ところで、ここの参加者層は、男女半々、20〜50代、Indiana出身、それなりに裕福な白人。みな、「出世する」とかいう飢えた感じはなく、「将来の夢」のようにロマンがあっていいと思った。ほかの人は聞き流していたが、市長になりたいと言ったLくんは本気だ。

いつも思慮深い発言をするトレーナーのMさん(50代くらいの白人)もこのトピックについて話した。Mさんは少し考え込んで、
「健康でいること」
と、普通のこたえだった。そして、いっしゅんの沈黙の後、こう言った、
「…世界チャンピオンを育てたい…。だけど、たくさん時間がかかるんだよね…。」

さすがだ。遠慮がちに言うが、あきらかにいつも気合いが違う、Mさんは本気で言っている。そう、一人気合いが違う。いつもジョークを言って明るい人だが、目の奥はいつも闘志がみなぎり、ボクシングに命を賭けている。別にボクシングがさかんなわけでもないIndianaの素人のボクシングのクラス。こういう人に会えるのはとても嬉しい。頭の中の深い霧がすこし晴れた気分だ。

ところで自分はというと、「5年後の目標」について、

「学校卒業する」
「試合に一回出る」

と言っておいた(他にもある)。